夜、仕事から帰宅した部屋はいつもと同じように静かだった。
30代半ばの浩太は、鍵を開ける音だけが響く玄関で、今日も深いため息をついた。冷蔵庫の明かりだけを頼りにコンビニ弁当を温め、テレビをつける。でも声は聞こえても、心はどこか遠くに置いてきている気がした。誰かとただ寄り添って、今日の疲れを優しく包んでもらいたい——そんな想いが、最近ますます募っていた。
そんなある夜、浩太は勇気を出して大阪日本橋の添い寝リフレ「そいねやさんマティエ」に足を運んだ。 初めての来店で指名する勇気もなく、受付で「おまかせでお願いします」と伝えた。 スタッフさんが微笑みながら「ではゆきちゃんがおすすめですよ」と案内してくれた。
個室に入った瞬間、柔らかい照明が浩太をそっと包み込んだ。 ゆきちゃんが優しく頭を下げ、「初めまして、ゆきです。今日はよろしくお願いしますね」と明るい声で挨拶した。 浩太は少し緊張しながら「よろしくお願いします」と返し、ベッドに並んで横になった。
最初はたわいもない会話が続いた。 「今日はどんな一日でしたか?」「仕事お疲れ様です」など、普通の挨拶のような言葉。 浩太は内心「まあ、こういうものか……」と少し物足りなさを感じていた。ピンと来ない。 ただのサービスなんだろうな、と自分に言い聞かせながら、天井を見つめていた。
でも時間がゆっくりと流れるにつれ、ゆきちゃんの体温がじんわりと伝わってきた。 彼女は自然に体を寄せ、浩太の肩にそっと頭を預けた。 ふわっとした髪の優しい香りが鼻をくすぐり、彼女の規則正しい呼吸が胸に響く。 浩太は無意識に腕を回し、彼女の背中に手のひらを当てた。 温かい。柔らかい。 彼女の心臓の音が、自分の鼓動と重なり合うように感じられた。
その後も何度か通っているうちに、浩太はだんだん彼女に沼っていった。
ある日の添い寝中、ゆきちゃんが浩太の胸にぴったりと体を預け、いたずらっぽく囁いた。 「浩太さんの心臓、今日はちょっと速いですね……? もしかして、私のせいですか?」 浩太は照れながらも笑って返した。 「バレてたか……。ゆきちゃんの匂いが近くて、ちょっと落ち着かないんだよ」 ゆきちゃんはくすくす笑いながら、さらに体を密着させてきた。 「ふふ、じゃあもっと近くで聞いてみますね」 彼女は耳を浩太の胸に当て、指先で優しく腕をなぞりながら、 「ドキドキしてる……かわいい」 と甘い声で言った。 浩太は彼女の髪に顔を埋め、照れ隠しに「ゆきちゃんが悪いんだぞ」と返すと、 彼女は「じゃあ責任取って、もっとぎゅーってして?」と甘えた声で返してきた。 二人はくすくす笑い合いながら、互いの体をより深く絡め合うように寄り添った。 息が混ざり合う距離、肌と肌が触れ合う感触、耳元で聞こえる小さな笑い声—— そんな甘く、少しえっちなやり取りが、浩太の心をどんどん溶かしていった。
添い寝が深まるにつれ、ゆきちゃんの息が首筋に温かく当たるたび、 浩太の胸は甘く切なく高鳴った。 彼女の指先が背中を優しく撫でる感触、髪が頰に触れる柔らかさ、二人の体が自然に重なり合う密着感—— すべてが、浩太の心を甘く締めつける。 「これは仕事だとわかっているのに……」 そう自分に言い聞かせても、心の奥底から別の声が響く。 「いや、この気持ちは本物だ……」
「このまま、ずっとこうしていたい」 そんな思いが頭をよぎるたび、浩太は自分に驚きながらも、 この温もりを本気で恋しいと感じていた。
帰り際、ドアの前で彼女が「また来てくださいね」と微笑んだとき、浩太の心は痛いほど高鳴った。
家に帰っても、その余韻が体に残っていた。 部屋の明かりをつけても、さっきまでの温もりが恋しくて仕方ない。 ベッドに横になっても、ゆきちゃんの息づかいが耳に残り、 「またすぐ会いたい……」という想いが胸を締めつける。 一人でいる静けさが、こんなに重く感じたのは久しぶりだった。
でも、同時に不思議な安堵感もあった。 あの時間だけは、誰にも邪魔されず、心が素直になれた。 次の朝、浩太は目覚めた瞬間、ふと微笑んでいた。 昨夜の寂しさは、ゆきちゃんの優しさによって、 不思議と前向きな想いに変わっていた。 「また会いに行こう」 その気持ちが、胸の奥で静かに、けれど確かに燃えていた。 仕事の疲れも、部屋の静けさも、 今は少しだけ軽く感じる。 ゆきちゃんとの時間が、浩太に小さな希望をくれたのだ。
添い寝リフレは、そんな心の隙間に、そっと温もりを届けてくれる場所なのかもしれない。

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